あなたと私のカネアイ
「ちょうどね、お夕飯ができたところよ。張り切ってたくさん作っちゃったから、遠慮せずに食べて」
「ありがとうございます」

 円はスマートに受け答えをしながらリビングへと入っていく。その後ろをちまちまついていく私は、なんだか落ち着かない。
 手を洗って、またもお手伝いを断られた円は、出来上がっていた料理をお盆に乗せて持ち、私と一緒にリビングへと足を踏み入れる。そこでは、もうお父さんがお風呂上りの一杯を楽しんでいた。
 円はお父さんの向かい側に、私はその隣に座って挨拶を交わす。

 な、なんか……お父さんの顔、まともに見れない。今までだって見たくないって思ってたけど、それとはちょっと違うっていうか……

「円くんはまた今日も運転? 結愛だって運転できるんだから、飲みなさいな」

 お母さんが残りの料理やビールを運んでくると、円は笑って首を振った。

「いえ、すみません。急に休みを入れたので、明日は朝早くて。次はお付き合いできるようにスケジュールも整えて伺います」

 それから旅行の話を始めるお母さんと円。
 お母さんとも目を合わせないようにしている自分に気づいて……私は心の中で自分を罵った。
 円とあんな風に過ごした翌日によくも実家に帰ろうなんて思ったものだ。別に、言わなければわからないだろうけど、なんだか悪いことをしたような気分だ。
 皆はこういうの、どうやって乗り切るんだろう。慣れるものなのかな。

 ていうか、もしかしたら円の方が気まずいんじゃないだろうか。いや、でももう結婚してるし関係ないのかな? 嫌がることなく実家に寄ってくれたけど……円は何を思っているんだろう。
 ふと隣を伺うと、円は楽しそうにお母さんたちと話しながらご飯を食べている。
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