あなたと私のカネアイ
「結愛が小さい頃はよく行ったわよね、お父さん」
「あぁ……なかなか離れたがらなくて困ったな」

 円がテディベア博物館のことを話すと、お母さんもお父さんも懐かしそうに目を細める。

「お土産のクマは一つだけって約束で、毎回随分悩んでいたわね」

 ふふっとお母さんが笑う。

「買ってやっても、次のクマが来るとそっちに心変わりするのにな」
「でも、ちゃんと全部棚に飾って大事にしていますよ。ピアノの発表会のときに買った大きなクマも。ねぇ、結愛?」

 話を振られて、私は軽く頷く。
 そういえば、くーちゃんを買ってくれたのはお父さんだった。
 初めてのピアノの発表会の後、好きなものを買ってくれると寄ったデパートで一目惚れしたクマのぬいぐるみ。私のテディベアコレクションは、その頃から始まったと思う。
 あのときのお父さんは、すぐ“心変わり”してしまうものに使うには多い金額を笑顔で使ってくれたのにな。
 それとも、私が子供だったからそういうことに気づけなかったのかな。

「……そうか。あの大きなクマは高かったからな。あんなにクマばかり買って、まったく困った娘だよ」

 お父さんは、ははっと笑ってビールを飲む。
 私は「そうだね」と適当に相槌を打ってお味噌汁を飲み干した。

 人間、そんな簡単に変わるものじゃない。私だって、円と結婚したから、一晩過ごしたから……そんな理由で意地っ張りが直るわけでもないし。
 でも私は、円と近づいて少しだけ……そう、こんな風に冷静に対処できる。
 円が隣にいるから。
 そういう風に思えるのは、私がほんの少しだけ成長できたってことだって思ってもいいよね? そして、それは円のおかげなんだ。

 円が私を甘やかしてくれて、居場所をくれて、アイしてくれるから……私のおカネへのこだわりと意地がちょっとずつ薄まっていくみたい――…
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