あなたと私のカネアイ
「結愛」

 沈んだ気分で円さんを玄関まで見送りに来た私は、肩に触れられてビクッと後ずさった。

「ああ、ごめん。ぼーっとしてたから」

 円さんは少し驚いてから柔らかい笑みを浮かべる。

「来週の休みは木曜だったよね?」
「はい」

 ジュエリーショップは土日も営業するから、シフト制。

「俺も休みにするから、籍を入れに行こう。引っ越しもできればしたいけど、荷物まとめられる?」

 私が頷くと、円さんも満足げに頷いてドアに手をかけた。

「家具は揃ってるし、洋服とか小物とか必要なものだけでいいよ。すぐに使わないものは少しずつ運べばいいし」
「はい」

 本当に、結婚するんだ……
 こういうものなのかな。なんだか突然過ぎてよくわからないけど。

「それじゃあ、また連絡するから」
「はい。また……」

 小さく手を振る。振り返してくれた円さんの手がとても大きく見えた。ドアの向こうへと歩いていった円さんの背中も。
 どうしてこの人はよく知りもしない私のわがままをすべて笑顔で受け止めたんだろう?
 結婚生活の中、その答えがわかる日は訪れるだろうか――?
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