あなたと私のカネアイ
「そうじゃないよ。結愛の目的が映画を観ることなら、俺の今日の目的は結愛と一緒に過ごすこと。結愛が観たい映画を観るっていうのは俺にとっては目的を果たすための手段だから、種類はあんまり関係ない」

 ……変な理由。
 恋人や夫と一緒に観たって興味のない話なんてつまらないだけだ。でも、それを「愛を信じる夫」に理解を求めることは無駄な気がするし、上映時間までの短時間にそれができるとも思えない。
 私は「そうですか」とだけ言って、チケットを買いに歩き出す。すると、再び腕を引かれた。

「チケットは俺が買うから」
「いいです。そんなの――」
「結愛は飲み物買ってきて。俺、アイスコーヒーがいい」

 円さんはそう言って、私に千円札を渡し、チケットカウンターへと向かってしまった。
 ああ、もう。調子が狂う。だから嫌だったんだ。
 別に、奢ってもらわなくてもそれくらい自分で払えるし、同じ作品を観るつもりもなかった。彼が恋愛映画に興味がありそうだってことも予想がついたし、そこで別れて一息つけると思ってたのに。

「……連休にしなきゃ良かった」

 そうしたら、家でゆっくりDVDを見ても良かったし、なかなか読む時間がなくてベッドの脇に積んである漫画も読めた。
 今日は映画が終わったらすぐに帰ろう。
 一人なら気楽に好きなものを観て、ちょっとお茶をしてから好きなだけウィンドーショッピングをして……と休日を満喫できるけど、円さんがいたら無理な気がする。
 これ以上、ペースを乱されるのは嫌だ――

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