あなたと私のカネアイ
 映画はとても面白かった。
 アクションが派手で、音楽も迫力があって引き込まれた。鳥肌が立つシーンがある映画は多くないし、今日の作品は当たりだったと言える。
 難点をあげるとすれば……隣に円さんがいたことなんだけど。

 私は黙々と歩く私の隣、来るときと同じようについてくる夫の様子を伺った。特に映画を観る前と変わりなく、私の視線に気づいて穏やかな笑みを返されたので、視線を外して微かにため息を零す。
 この人は、興味もない映画を観て楽しかったんだろうか。
 円さんの休みは多くない。適当に自分で調整することが多いって言ってたから、たぶん調整しなければ働き続けることは可能なんだろう。
 忙しくしているわけじゃないって言ってたけど、お金持ちの仕事内容は私にはよくわからないし、興味もない。でも、お休みが貴重ならもっと有効な使い方をすればいいのに。

「結愛、ショッピングはしないの?」
「しません。帰ります」

 立ち止まることのない私が駐車場へと向かっていることに気づいたらしい円さんが不意に声を掛けてくる。

「そうなの? じゃあ帰りに、ちょっと寄り道させて」
「はぁ……」

 私はため息だか肯定の返事だかわからないような声を出した。
 出掛けて数時間のはずなのに、めちゃくちゃ疲れた。
 人と一緒に行動するっていうのは、本当に体力や精神力を使う。些細なことでイライラする私も悪いってわかってる。でも、それを回避するために一人行動を選んでいるのだ。それを許してもらえないというのは更にストレスが溜まる。

「結愛、いつも映画だけ観るの?」
「……その日の気分です」

 車に乗り込んで、少し走らせたところで円さんに聞かれて、助手席の私は窓の外に視線を向けながら答えた。
 本当は、本屋さんに寄って新刊チェックもしたかったし、暑くなってきたから新しい夏服を買おうかなって思ってた。
 まぁ、どちらも来週の仕事帰りに行けばいいや。
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