あなたと私のカネアイ
「結愛、聞いてる?」
「へ……?」

 円さんの後ろ姿を追いながら、自己嫌悪に陥っていたところに声を掛けられて立ち止まる。追っていたはずの背中が見当たらなくて振り返ると、彼はクスクス笑ってお店の扉を指差した。

「ココだけど」

 円さんの声も表情もいつもと変わらない。さっきのぎこちない態度は私の思い込みだったのかもしれない。
 なぜかホッとして、彼の指差す建物を見る。

「ここ、うちの店……」

 そこは私の勤務先のジュエリーショップだった。駅からそう遠くない、ブティックやアクセサリーなどのお店の並ぶ通りにある。
 何で休みの日までと思いつつも、円さんにくっついて入った。
 同僚の美希が私たちに気づいてニヤリと笑ったのが気に食わないけど、無視しよう。
 今どきという言葉が似合う美希は、お店の規定内ではあるけど、髪は明るめで顔立ちのハッキリした子だ。恋していないと生きていけないタイプで、人の恋路にもよく首を突っ込んでいる。
 電撃結婚した私は、もちろん根掘り葉掘り質問攻めにあった。それもようやく落ち着いてきたのに、これじゃ、また来週からの勤務が大変になる。
 一方の円さんはガラスケースの中を覗き込んで、すぐに彼女を呼んだ。

「これ、この子のサイズありますか? 結愛、こっち来て」
「円さん、指輪は要りませんから――」

 彼に近づきながら声を掛けるが、彼の指先にある商品を見てヒッと声が出た。

「買うとしてもこんな高いのもらえませんから!」

 思わず円さんの腕を引っ張る。
 だって、彼が指差していたのは、うちの店で一番お高いキラッキラの指輪だったのだ。

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