あなたと私のカネアイ
「ねぇ、結愛。男も女も、どうして好きな人に貢ぐのかわかる?」
「は?」

 突然、真剣な表情になって「貢ぐ」だのと言い出した夫に戦慄く。
 それもジュエリーショップで! 店員の前で!

「距離だよ、距離。相手に近づきたくて、相手の気を引きたくて貢ぐの。つまり、物は相手の気を引くくらいのものじゃないとダメなんだよ。一度気を引くことができたら、それをキープしなきゃいけない。お金や物は手段だよ。それが世の中で言われてる『貢ぐ』ってことだと思わない?」

 私がお金にこだわっているから、私との距離を縮めたい円さんは金額を積むってこと? しかも、私の気を引き続けるために高額のお買い物を続けるというように聞こえるんですけど。
 真っ青になっただろう私の顔を見て、彼はクスッと笑い、私の手を腕からそっと離した。

「結愛との距離を縮める方法、これくらいしかないみたいだから」

 宇宙人(こいつ)――!
 わざとやってるんだ。
 円さんの意図に気づいて、私は彼を睨み付けた。でも、彼は怯む様子もなく、美希に向き直る。

「この子、ここで働いてるんですけど……指輪のサイズを知っている方、いませんか?」
「確か、少し前に社員割引で指輪を買っていた気がしますからお調べしましょうか?」

 裏切り者はここにもいた。
 ていうか、指輪を購入したとかそのサイズとか、個人情報じゃないの?!
< 40 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop