あなたと私のカネアイ
「はい。こちらです」

 首が飛ぶんじゃないかと思うほどの勢いで顔を上げると、美希は顔の筋肉と肩をふるふる震わせながら笑いを耐えていた。
 カウンターには、小さなリングの箱が置いてある。
 円はそこから指輪を取り出して、私の左薬指にそれを嵌めた。先ほどのよりお値段控えめのプリンセスカットのマリッジリングだ。
 嵌められた……いろいろと。
 
 ――手錠より、足枷より、首輪より、強く縛られる。

 最初が肝心、っていうのはこういうことを言うんだと思う。ペースを乱されただけじゃなく、完全に円のペースに乗せられた。
 名前という一見些細で、でも、人の心の距離をよく表すそれを私に呼ばせるために、私が距離を縮めないなら自分から縮める――貢ぎ続ける――と、脅しのようなことまでして。

「それじゃ、帰ろうか」

 そう言って笑った円の表情は、この状況を心底楽しんでいると物語っている。
 美希の「ありがとうございました」という声を聞きながら、私は何度目かもわからないため息をついた。
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