あなたと私のカネアイ
「ちょっ! 何す――」
「何、されると思う?」

 ちょっと本気で声を出してみる。
 結愛は慌てたように掴まれてない方の手で胸元を押さえたから、俺はわざとゆっくり視線を落として、オレンジ色の証明に照らされた肌を見た。

 娘が欲しかったらしい母さんが張り切って買ってたルームウェア。少し露出が多くて、結愛の柔らかそうな胸がチラリと見える。スタイルがいいって母さんが言ってたのを思い出して、少しムッとした。
 俺の知らなかった下着のサイズを、結愛の母親から簡単に入手してた母さんに少し嫉妬してる。結愛も、なぜか母さんには懐いているような気がするし……

「俺ら……夫婦、だよね?」
「普通の夫婦じゃない」
「普通って?」

 そう問うと、結愛は口を開けかけて閉じた。
 視線を泳がせているところを見ると、何を考えてるのかは大体想像がつく。照明の色のせいでよくわからないけど、頬も赤く染まっているだろう。

「こういうこと、するのが普通?」

 胸元に当てられた結愛の手の甲に指先で触れると、彼女はビクッと大きく肩を跳ねさせた。
 ああ、俺は今、結愛の距離を侵してる。
 彼女がスキンシップを異常に避けてるのは、たぶん肉体的な距離をとることで精神的な距離も取りたいからだ。
それなら、肉体的距離を詰めたら――
 俺は結愛の腕を指先でなぞりながら、じりじりと彼女に近づいた。手の甲から肘までをゆっくり辿り、折り返して手首を掴む。至近距離で向かい合って座っている彼女は泣きそうな顔をしてた。

「結愛、手、繋いで寝る?」

 ここで妥協しちゃう辺り、俺も弱いかな。

「や、だ……もう離して」

 震える声を隠すためか、少し大きな声を出した結愛。
 怖がられているのはわかるのに、そんな怯えた妻が可愛いと思えてしまう。やばい。俺、今日耐えられるかな?
 結愛が身体を引こう力を入れたのに逆らわず、俺は結愛と同じ方向に体重を掛けた。
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