あなたと私のカネアイ
「そ、そんなことない!」
「あるよ。ねぇ、結愛。確かに他人に触られるのって不愉快なときもあるけど、俺らはもう他人じゃない。それは書類上の話じゃなくて、結愛はもう二ヶ月俺と暮らしてる。たった二ヶ月っていうけど、毎日顔を合わせてたら、それなりに親近感も沸くよ」

 なんか俺、説教してるみたいだ。
 でも、さっきの幽霊の話もそうだけど、結愛は理屈っぽいところがある。
 だから、俺がそれなりに筋道を立てて話すと耳を傾けてくれるみたいなんだよね。ちょっと強引でも、理由を説明すると、「そうなのかもしれない」っていう気持ちが生まれるらしい。

「結婚式では、キス……しなきゃいけないんだよ? 親に見られたいの? ぎこちなかったら、あとで言い訳が大変じゃない? 最初から慣れておいた方がいろいろとスムーズに事が運ぶでしょ。俺の実家でのファーストキスが嫌なら、手を繋いでよ。キスの前に……もう少し俺と触れ合うことに慣れて」

 結愛の眉間には皺が寄って、俺の言葉を吟味しているようだ。別の言い方をすれば、結愛の中に生じた迷いが眉間の皺となって表れている。
 俺は、そのチャンスを逃さない。
 ころりと結愛の隣の布団に戻り、彼女の左手をとった。指を絡めてギュッと握ると、彼女はハッとしたように俺の方へ顔を向けてあからさまに嫌な顔をする。

「やっぱり少しずつ進歩していかないとさ」

 にっこりと笑って見せると、結愛はまた大きくため息をついて天井を見上げてから目を瞑った。
 これは、俺の勝ちかな?
 なんて、にやけてしまう表情を結愛に見られなくて良かったと思いつつ、彼女の手の温かさを感じる。
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