あなたと私のカネアイ
 * * *

「最っっっっっ低っ!」

 ガン、とビールのジョッキをテーブルに叩きつける。
 仕事終わりに無理矢理呼び出した佳織は、「割れるから」と心底迷惑そうな顔をしてつくねを口に入れた。

「そんなに怒ることないじゃない。たかがキスマークひとつくらいで」
「たかが!? 私、そんなの許してない! 大体、手を繋ぐのだって了承してないのに!」
「あのねぇ……」

 佳織ははぁっとため息を吐き出して頬杖をついた。

「条件付きとはいえ、結婚を了承したのはあんたでしょ? それに忠告までされたのに大口開けて寝てたあんたも悪いじゃない。円さんの言う通り、無防備でしょ」
「寝るのは仕方ないじゃない。睡眠は人間の三大欲求なんだから」

 それに、「大口を開けて」は余計だ。
 開けてたかもしれないけど……

「そんなこと言ったら、性欲だって三大欲求に入るでしょ」
「ぐっ……そ、そうだけど、睡眠欲には勝てないし。ああ、もう、それに、お義母さんたちにも絶対誤解された!」

 思わず片手で目を覆う。
 あの後、身支度を済ませて朝食を一緒にいただいたけど、ご両親の顔をまともに見られなかった。
 だって、キスマークつけて寝坊した嫁とすがすがしい顔をした息子が並んでたら……私だってそう思うもの。
 更に、キスマークに気をつけろとお義母さんに言われてしまったなんて!
 円に強引に手を繋がされた後、すぐに寝落ちてしまった自分が情けない。いや、あの状況でもぐっすり眠れたことはある意味賞賛に値するのかもしれない。
 でも、なんでだろう……?
 言いたいことを言ってスッキリした後、寝れると思った割にはうまく気持ちが沈んでいかなかったのに。
 円の両親の馴れ初めを聞いて、安心みたいな温かい気持ちになったんだよね。そしたら、眠くなっちゃって……
 
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