あなたと私のカネアイ
「条件で結婚したっていうけど、本当にそれだけ? 嫌いな人だったらどれだけ条件が揃ってたって断ったはずだよ。別に運命とか言うつもりはないけど、でも、何かがあったんじゃない? 三つの条件以外で、結愛が初対面の人間にあれだけ自分の主張を曝け出したのは珍しいよ。それを最後まで聞いてくれた人も珍しい」

 違う。私は、安定した生活ができれば何でも良かった。ブラックカードは畏れ多くてまだ使ってないけど……
 実家から出られて、生活に不自由しなくて、私の理想には近づいた。
 でも、自由な時間は円のせいで減った。
 家事はやってくれるし、文句も言わないし、いい旦那だと思う。ただし、私に構おうとするところが気に食わないんだけど……
 けど? 何?
 さっきから、私「だけど」「でも」ばっかり。
 ああ、なんか飲みすぎたかも。思考がまとまらない。

「あんたにあれだけモーションかける男も珍しいわけだし、もう少し円さんに歩み寄ったら? いきなり抱かれろとは言わないけど、キスくらいしてみたらいいんじゃない?」
「そんな軽いの嫌」
「軽くないわよ。相手とキスできるかできないかって結構重要だと思う。意識してなかった人に告られたとき、相手とキスする自分を想像するの」

 佳織曰く、できると思ったら付き合ってみてもいいらしい。
 想像できなかったり、気持ち悪いと思ったりしたら、生理的に受け付けないってことでお断りだと。
 円と、は……
 顔はそれなりに整ってると思う。目は少し細めかな? だけど、薄い唇はお手入れしてるのかってくらい綺麗なんだよね。そういえば、口元は私の好きなイギリスの俳優さんに似てるかも。
 この前本人は気にしてたけど、臭くないし、近づいても平気だし、触られるのも鳥肌が立つほど嫌な訳じゃない。そう考えたらキスはあり、ってこと?

「……いやいや、ないない」

 私はジョッキに残っていたビールを飲み干して首を振った。
 やっぱり酔った。もう帰ろう。
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