あなたと私のカネアイ
 店員さんを呼んでお会計を済ませて外に出ると、むわりと蒸した空気が肌に纏わりつく。

「もう突然呼んだりしないでよ? じゃあね、結愛」
「またねー」

 佳織とは、うちの最寄り駅近くの居酒屋で飲んでたから私は歩きだ。ひらりと手を振って佳織が改札口に入ったのを見届けて踵を返す。
 少し多めに飲んでしまったけど、お酒には強いので足取りはしっかりしてる。頭が少しふわふわするくらいで、いい感じに酔えたと思う。
 家に帰ったらメイクだけ落としてベッドにダイブしよう。明日の朝、シャワー浴びればいいや。
 イライラは佳織に聞いてもらったから落ち着いたし。まぁ、いろいろ言われたけど、なかなか興味深い話だったからそれは良しとしよう。
 キスができるかどうか、か。
 面白い発想だな。確かにセックスより安全で、かつ男女の関係を築けるかどうかというスタート地点としてそういう物差しもありかもしれない。
 手を繋ぐっていうのは友達でもする可能性はあるわけだし。

「――結愛!」

 そんなことを考えていたら、前から円が走ってくる。息を切らせて私の前で止まった彼は、私の腕を掴むと顔を上げた。
 あれ……? いつもとちょっと違う。

「結愛、どこ行ってたの?」
「佳織とご飯食べてきたけど、どうしたの?」

 そう言うと、円は、はぁぁぁぁっとたぶん1週間分くらいの幸せを吐き出した。

「いつもの時間に帰ってこないから、心配した。闇雲に探しても入れ違いになったら嫌だしあんまり動けなくて……メールもしたのに返事ないし、電話にもでないし」
「そうなの? 気づかなかった」

 カバンの奥に埋もれていた携帯を取り出すと、確かにメールと着信が何回かあった。
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