あなたと私のカネアイ
「佳織ちゃんがメールしてくれたから慌てて出てきたんだよ。結愛、夕飯食べてくるなら連絡して。場所を教えてくれたら迎えに行くし、いくら駅から近いって言っても、夜はそこの公園とかちょっと怖いし、女の子一人じゃ危ないでしょ」
「女の子って……もう子供じゃないんだし、この辺は住宅や街灯だって多いんだから――」
「子供じゃないから危ないって言ってるんだ!」

 急に大きな声を出されて、思わずビクッとする。

「あ……いや、夜道は子供も大人も関係ないけど……そうじゃなくて……ごめん…………とにかく、あんまり心配させないで」

 フイッと視線を逸らした円は、私の手を引いてマンションへと歩き始め、私はぼんやりとその後をついていく。

「円、怒ってるの?」
「……結愛は、酔ってるね?」
「うん、少し。円のせいで」

 何だろう。
 さっきの円はちょっと怖かったけど、酔ってるせいかなんだかくすぐったい。
 私のこと、心配してくれたんだ……

「今朝のこと?」
「うん。佳織がたかがキスマークって言ったの。そりゃ、佳織にとってはそうかもしれないけど……あ、でも、面白い話も聞けた」

 さっき聞いたキスのことを話すと、円はクスッと笑った。
 あ、いつもの笑い方。

「円もそうなの?」
「俺? どうだろうね。あんまり考えたことなかった。プロポーズしたときは、結愛のことが好きだったから、キスはしたいって思ってたし、今も思ってるけど」
「ふーん。じゃあ、する?」

 そう言うと、円はピタリと歩みを止めて私を振り返った。
 マンションのエントランスの明かりが眩しくて、円の表情がよくわからない。
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