あなたと私のカネアイ
 円の指先が私の頬に触れて、私は一歩後ずさった。でも、泡だらけの手で払い除けることができなくて、シンクに両手をかざしたままの格好――まぬけだ。
 円はコックを捻って水を出すと、私の手の泡を落とした。それから、指を絡めて手を握る。

「結愛が酔うと、饒舌になるのも嬉しい発見だったな。手を繋ぐのは、慣れた?」

 首を思いっきり横に振って否定を示すけど、円はクスッと笑うだけで手を離してはくれない。それどころか、チュッとまた私の頬に唇をくっつけてくる。

「頬にキスも、慣れてね?」

 そう言って、円は私の手を離す。

「片付けは俺がやるから、いいよ」

 彼が言い終わらないうちに、私はキッチンから逃げ出して自分の部屋に駆け込んだ。思いきりドアを閉めて、そこに背を預けて座り込む。
 触れられた頬を手で押さえてギュッと目を瞑ったら、食事のときの円が見えて慌てて目を開けた。

 何これ、何これ、何これ!
 
 これじゃあ、本当に私が円を意識してるみたいじゃないか。
 好きって言われたから、頬にキスされたから――こんなの単純すぎる。今どき中学生でもこんな反応しないんじゃないかってくらい、自分の異性への免疫のなさに驚く。

 私……円との距離の取り方が、わからなくなってる。
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