あなたと私のカネアイ
 * * *

 それから二日後の、仕事終わり。
 私は駅ビルの中のコーヒーショップにいる。空になったカップに刺さったストローをぐるぐると回し、ため息をついた。

 ――「六時半までには帰ってきてね」

 花火大会は七時半から。彼の言う六時半というのも、今日は早番だったから余裕を持って帰宅できる時間だ。
 だけど、帰りたくなくて、もやもやとした心を抱えながら時間が過ぎるのを待っている。
 目的もなく駅ビルの中をぐるぐると歩き回ってようやく六時半。それからこのコーヒーショップに入って三十分。
 あと三十分……家から一番近い花火大会だけど、開始と同時に帰宅すればさすがに円も諦めるだろう。
 帰ってしまったら――花火大会に行ったら――きっと、私、絆される。
 手を繋ぐのだってそうだった。ちょっと強引な円に最後まで逆らえなかった。
 そうやって、キスしちゃったら? 次は? その次は?

 ――「やっと俺のこと意識してくれてるんだ?」

 円は「意識」って言い方をしたけど、これは「警戒」だ。
 愛は信じない。好きになったわけじゃない。
 だったら、帰ればいいのに。突っぱねればいいだけなのに……言葉巧みに私を引き寄せる円は、私の隙を作る方法を心得てるから帰れない。
 そして、そこで負けてしまう私は結局、彼のことを拒みきれていないんだ。
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