あなたと私のカネアイ
「結愛!」

 開けたドアの先には円がいて、私が入ってくると満面の笑みを浮かべて迎えてくれた。
 お祭りのときと同じ浴衣を着て、気合十分という雰囲気。怒ってはないみたいだけど……その笑顔はちょっと胡散臭い。

「あ、仕事が……」
「おかえり! ほら、早くしないと間に合わないよ」
「うぇ!?」

 咄嗟に言い訳が口をついて出たものの、急いだ様子の彼に手を引かれ、かろうじて靴を脱いで部屋に上がる。
 通ったダイニングには夕食も用意されてて、家で食べてから花火大会に出掛けるつもりだったらしいことがわかった。
 でも、円はそのままリビングを抜けてベランダへと出てしまう。それと同時にパッと空が明るく光る。ピンク色の花が咲いて、ドン、と音がした。

「花火……」
「あのビルがちょっと邪魔だけど、この花火は家からでも見えるんだよ」

 それって、最初から……

「結愛が帰ってこないのは予想の範囲内だった」

 ポカンと空を見上げていた私の肩を掴んで、円は自分の方へと私の身体の向きを変える。花火が空に散るたびに、円の真剣な表情がチカチカ光って鼓動が速くなる。

「花火大会、行きたくなかったんでしょ? 俺とキスすることになっちゃうから」

 なんで……なんで、私、ドキドキしてるの。なんで円は私の行動がわかるの。私の考えてることがわかってるの?

「ねぇ、結愛。好きになってくれるきっかけは何でもいいよ」
「な、んで……」

 なんでそんなに私に執着するの?

「好きだから」
「っ……嘘! 三ヶ月前に会ったばっかりなんだよ? 私、お金があるからって円と結婚したんだよ」
「お金を持ってる俺が好きなら、それでもいい。貧乏にならないように働けばいいだけだから。でも、結愛は少なくとも……俺のこと男として意識してるよね?」

 意識じゃない。そうじゃない――私は首を横に振って円の手を払おうとした。
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