あなたと私のカネアイ
「嘘」
「――っ」

 だけど、円は私の手を掴み、もう片方の手で顎を持ち上げた。
 近づいてきた唇に驚いて、目を瞑る暇もなかった。持っていたカバンがベランダの床に落ちて、トスッと音を立てる。
 柔らかい感触はすぐに離れたけど、ふわりとした名残りと円の体温が唇に残ってる。
 初めてのキス――嬉しいとか、嫌だったとか、ハッキリとした感情にはならない。ただ、クラクラした。足に力が入らなくて、その場に座り込んでしまった私の前に、彼もしゃがみこんだらしく影が私にかかる。

「なんで……」
「なんでだと思う?」

 曖昧な切り返しに言葉を返せない。
 円も何も言わなくて、花火の音だけがやけに大きく降り注いだ。

「結愛」

 それからしばらくして、今まで聴いたことない声色で名前を呼ばれ、思わずビクッと顔を上げてしまうと、円はもう一度近づいてこようとしていて、咄嗟に顔を背けた。

「結愛、ちゃんと俺を見て」
「や、だ……」

 見たら……流される。流されるほど、動揺してる。
 自分が怒ってるのかもよく分からないし、ファーストキスを奪った男とどういう表情で向き合えばいいのかわからない。
 円が私を好きになった理由とか、私の動揺の理由とか、考えたいことはたくさんあるのに、うまく頭が回らない。
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