あなたと私のカネアイ

触れ合い（１）

　――それから数日後。

　円の作った朝ご飯を食べ、急いで着替えとメイクを済ませた私は、急いで玄関へ向かった。
　朝はいつもギリギリなので、急ぐのは日常だ。
　でも、あの花火大会の夜から加わった理由がある。

「あ、結愛」

　――まずい！
　円の声が廊下に響き、私はパンプスを引っ掛けたまま扉を開けようと手を伸ばした。
　しかし、腰をグッと引き寄せられて前のめりになっていた身体は簡単に後ろへ倒れこむ。

「ちょっ！　急いでるから！」

　お腹に回された腕を叩いて放してほしい意思表示をするが、円は「うん、わかってる」なんて笑って私の身体を反転させた。
　そして間髪入れず、ちゅっと私の唇を奪ってしまう。

「――っ！」

　また、負けた。
　花火大会の夜以来、いってらっしゃいとおかえりのキスをねだる夫とは、毎日攻防戦を繰り広げている。
　逃げる私と追う円。
　勝敗記録は……負け越している。

「いってらっしゃい」
「――いってきます！」

　余裕の笑みが悔しくて、思いっきり顔を背けてやった。
　そのまま彼の腕から逃れ、玄関を出る。
　誰も、私がさっき夫とキスをしたなんてわかるわけないのに……皆が知っているみたいで、羞恥が熱として顔に集中する。
　私はそれを誤魔化すように、駅までの道のりを小走りに駆けた。
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