あなたと私のカネアイ
「!」

 そこまで考えて、自分の頬を叩く。

「ちょ、結愛? 大丈夫?」
「……ダメかも」

 驚いた美希の問いに、ぼそりと呟く。
 私、あのカップルに指輪を勧めていたときから、円とあの彼氏を比べてた。
 円はお金がある、お金がないことを誤魔化すキスはしない。花火大会の日の二回と、それ以来続くいってきますとおかえりの――

「……キス………」

 毎日のように触れられるようになった唇は、彼の感触を覚えて始めてる。
 私は今朝触れ合った唇を、無意識に指でなぞった。

「は? キス?」
「え!?」
「何ブツブツ言ってるのよ」
「あ、いや……さ、さっきの彼氏の唇、ちょっと厚ぼったかったかなって……」

 円の綺麗な弧を描く唇とは違って、キスはしたくないなって思って……って違う!

「まぁ、イケメンではなかったか。女の子が可愛かったから、意外だったかも。中身がいいのかな」
「そ、そうかもね」

 ケチケチしてて中身もイマイチだった、という自分の感想は呑み込んだ。
 私の中で、男を見る基準が「お金」から「円」になっていることも、心の奥底にしまおうと拳を握る。
 そこへちょうどお店に入ってきてくれた新たなカップルに、気を取り直して声を掛けた。
< 85 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop