あなたと私のカネアイ
 こうやって、どんどん私を追い詰めて、円は私に「好き」を錯覚させたいのだろうか。私は彼のお金目当てで結婚したんだから、彼のことが好きなわけじゃない。
 結婚という書類の契約で、私は円という夫(おかね)を手に入れただけだ。
 でも、その夫は愛を欲しがってる。ご両親みたいな仲のいい夫婦関係を望んでる。
 ふと顔を上げると、困った顔の自分と目が合った。自然とその視線は唇へ下がっていって、さっき一瞬だけ触れた円の唇を思い出す。
 円は、私とキスしたいの……? じゃあ、私は円の許容範囲にいるの? 私と夫婦になりたいの?
 お金はある。お金がなかったらなくなる愛は、お金があったら生まれるんだろうか。それならこのドキドキは、持て余した熱は、アイ――

「結愛」
「――っ!?」

 突然後ろから声を掛けられて我に返る。
 鏡にはいつのまにか円の姿が映っていて、慌てて水道を止めて手を拭いた。

「な、に」

 声が上ずる。私、変なことを考えてた。
 お金がなかったら愛はなくて、お金があったら愛があるだなんて……それこそ錯覚じゃないの。

「いや、なかなか来ないから様子を見にきたんだけど」

 眉を下げ、困り顔の円を直視できなくて、少し俯く。
 私、少し混乱してる。
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