あなたと私のカネアイ
 この瞳に見つめられると、苦しくなる自分が嫌。
 誰かとしか言わなかった円の言葉に他の男だなんて思った自分も……
 円を他の男と比べて……それだけじゃなくて、いつだって円の方が良いっていう結論にたどり着いてしまう私も嫌。
 それなのに、どうして突き飛ばせないんだろう。
 やっぱり私、混乱してるんだ。

「……これからは、俺に甘えてよ」

 何も言わない私の頭を撫でて、円が言う。

「これからって、もうそんな歳じゃないし、甘えたいなんて思わない。だから、もう円も諦めてよ。ご飯食べるから」
「年齢は関係ないでしょ? 大人になったって、寂しいって思うことはある。悲しくて泣きたい時だってあるし、そういうの、我慢するのだけが大人じゃないよ」

 頭を撫でていた手が頬に下りてきて、指の背で頬骨をなぞられる。
 ぞくっと背筋を伝った変な感覚に、身体が跳ねた。

「結愛はもっと力を抜くことを覚えないとね。意地っ張りは可愛いけど、過ぎると俺もいじめたくなっちゃうよ?」
「意地なんて張ってない」

 何もかも見透かすみたいな物言いに即座に言い返せば、円はクスッと笑った。

「洋服も雑貨も、シャンプーも、買い物に行けば食材だって、結愛は自分のお給料で買ってきちゃうのは、意地じゃないの?」
「それは――」
「結愛は俺のお金目当てで結婚したんでしょ? それなら、どうして俺のお金を使わないの?」

 円の指摘は何も間違ってなくて、私は黙り込む。
 お金を使わないのは、必要がないからだ。生活費を入れなくなって、私の財布には余裕ができた。
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