あなたと私のカネアイ
「お金目当てで結婚する女の人は、きっと、もっと贅沢するよ。仕事だってやめるだろうし、ブランド物の洋服やバッグを買ったり、旅行に行ったり、エステに通ったりもする」
「そ、そういうのは……必要ないの」

 セレブ妻という地位が欲しいわけじゃない。
 自分が働いたお金で自由を手に入れる達成感や充実感は好きだ。

「じゃあ、結愛の必要なものって何? お金は何のために必要だったの? 結愛が俺と結婚した理由は、何なの?」

 自分の考えを読んだかの如く問う円に、私は息を呑む。

「お、金だよ……お金が欲しかったの。誰にも文句を言われない場所が欲しかった。別にお金を使いたいわけじゃない。そこにあれば、それでいいの。使いたいって思ったときがきて、快く使わせてくれるだけのお金が欲しいって思ってた」

 使うだけがお金を求める理由じゃない。だけど、いざ使うとなったときに揉めないっていう前提が欲しかった。面倒な争いをしたくないから。

「嘘つき。結愛は、俺のことをお金として見てない。ブラックカードをあげたときの反応は、全然嬉しそうじゃなかった」

 そんなの当たり前だ。
 初対面の男にブラックカードを渡されて嬉しいなんて、それこそ漫画や小説の世界だ。普通、困惑や疑いの感情の方が先に来る。

「結愛は俺と手を繋ぐ度、キスする度に迷ってる。お金と愛の間で、迷ってる」

 そこまで言うと、円はゆっくりと顔を近づけてくる。

「やだっ」

 同時に私の後頭部に回された手が、私の頭を引き寄せて、私は彼の肩を力いっぱい押し返した。

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