あなたと私のカネアイ
「迷ってない! 愛は信じない! この世にはそんなものないんだから! もうやめてよ!!」
「結愛。愛を信じないならそれでもいい。でも、結愛の理論で行くと、お金があれば愛は続くってことになる。お金があれば、愛は生まれるって……」

 さっき考えていたことをそのまま言われて、手の力が抜けた。
 なんで……なんで、円はこうやって簡単に私の心を見透かすんだろう。
 なんで、彼なんだろう。

「それが、結愛の迷いでしょ?」
「っ……や、だ! 違う!」

 何が違うのかなんて、もうわからない。
 でも、とにかく彼を拒絶しないといけない。ここで流されたら、私が今まで頑なに信じていた哲学が崩れてしまうもの。
 円の唇との距離が縮んでいく。
 彼の肩を掴む手が震えた。
 円の言う通りなんだ。私、迷ってる。彼とキスできてしまったこと、お金を使ってないって指摘や何かにつけて円のことを思い浮かべる最近の自分――説明できなくなってる。
 アイは信じない。
 だけど、それなら……円に触れられてドキドキする気持ちや、キスを拒めない今のぐちゃぐちゃな気持ちは何なのだろう。
 今、流されたら、それがわかってしまう気がして怖い。

「結愛」

 円の息が唇に掛かって、ギュッと目を瞑った。
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