あなたと私のカネアイ
 それは、唇が触れる直前だった。
 ぎゅうううう……と、ものすごい音で私のお腹が鳴った。
 円はピタリと動きを止めて、私も目を開ける。
 キスを止めることができたということよりも、ありえないほどの空腹主張をした自分の身体が恥ずかしくて顔が熱くなる。

「お、お腹空いたって、さっきから何度も言った!」

 思わず言い訳をした声が羞恥で大きくなったのは仕方ない。

「うん。ごめん。じゃあご飯にしよう。温め直すから」

 円は肩を震わせて笑いながら立ち上がって、私の手を引いた。そのまま手を繋いでダイニングテーブルへと向かう。

 その日の夕食の味は、よくわからなかった。
 ただ、恥ずかしいという気持ちを飲み込むことだけに集中して、一体何が恥ずかしいのかもよくわからないまま、ひたすら口を動かした。
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