あなたと私のカネアイ

触れ合い(2)

「うん。こっちの方が可愛いよ」

 円が上機嫌で試着室から出てきた私に近づいてくる。
 彼もタキシードを着ていて、二人並んでお互いの衣装のバランスを見つつ、彼は自然と私の肩を抱き寄せる。
 ……振り払いたいのに、それができないのが悔しい。
 円もそれをわかっていて私に触っている。

「いいんじゃないかしら?」
「ええ、円くんも結愛も似合ってるわ」

 鏡には引き攣った笑顔を貼り付けた私と満面の笑みを浮かべた円。その後ろでニコニコしている円のお母さんと、私のお母さん。

 なかなか休みを合わせられなくて、ドレス選びはギリギリになってしまった。限られた時間でたくさんのドレスの中から衣装を選ぶ私たちは、着せ替え人形状態だ。
 とは言っても、ある程度ネットや雑誌で型などの希望を決めてきたので、比較的スムーズに行っていると思う。
 今着ているドレスはプリンセスラインで、チュールにゴールドの刺繍が入っている。ゴールドが入ると華やかだけど、スカートがふわりとしているので可愛い印象もある。特にウエストのリボンが全体を愛らしく見せてくれる。
 試着したドレスはどれも可愛くて楽しかったし、この最後のドレスは私も気に入った。

 相変わらず……というか、更に増した夫のスキンシップに最近は私も諦め気味だ。でも、親の前でベタベタするのは恥ずかしいというのもあるし、常識的にどうなんだろう。
 円にはさっきから目で訴えているのに聞き入れてもらえないことが不満だ。円のご両親は海外で出会ったって言ってたし、そういうことには寛容なのかもしれないけど。

「じゃあ、これにする」

 とにかく早く終わりにしようと思い、サッサと試着室に戻った。円と私のお母さんが「可愛い」「かっこいい」と盛り上がっているのをカーテン越しに聞いて、私はため息をつく。
 お義母さんはともかく、なんでうちのお母さんもついてきたんだろう。何も言ってないはずなのに……お義母さんがわざわざ連絡してくれたんだろうか。

 着替えをしながら見た鏡の中の自分は、結婚式を控える花嫁とは程遠い表情をしている気がした。

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