あなたと私のカネアイ
「塾や習い事にも行かせてたから、俺の小遣いなんてほとんどなかったよ。それが今度は留学って言い出したときにはもう大変だった」

 何よ。今どき英語が喋れなきゃ、って言って送り出したのはそっちじゃない。お金が飛ぶのが嫌なら最初から「行かせられない」って言えば良かったじゃない。

「やっと卒業して就職かと思ったら、勉強させたことと全然違う仕事に就いて、まったくしょうがない奴だよ。それでも出費が減っただけマシかと思えば、サッサと結婚しちまうもんだから、本当に親の苦労を知らない子供なんだよ」
「貯金で足りなかった留学費用は就職してからのお給料で返したし、奨学金の返済だって自分でしてるでしょ」

 思わず口を挟んだら、堤防が決壊したのが自分でもわかった。
 高校も大学も、私立に行かせたがったのは誰よ?
 あの学校は素行が良くない、この学校は進学率が悪い。そうやって、いちいちケチつけて来たのはお父さんだった。
 大学も名のあるところに行けってしつこかったのは、親の方。日本は結局名前がものを言うんだから、って。
 お金のことだって「奨学金をもらえばいい」って……

「苦労させてすみませんでした。私にかかった教育費も、生活費も、何もかも全部返しますから。大体、投資って……リスクも覚悟でやるもんでしょ。そんなのもわからないの? 本当、最低」

 こんな反抗、子供っぽいって分かってる。でも、止まらない。 
 
 だって、この人たちの希望通りに勉強して進学したら、お金がかかるって文句を言われて。
 そんなの最初からわかってたことでしょう。どうして後から言うの? 「勉強は自分のためなんだから」って言われたときの、私の気持ちがわかる?
 別に勉強なんてどこに行ってもできたわよ。「自分のため」って都合のいいこと言って、自分の使った金を返せってことなんだから。
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