本当はね…。


「もう決めたんです。貴方と関わりたくない。関わって傷つくのが怖いんです。だから…もう関わらないで下さい。」
昔のことを思い出す度、佐々舞尋との関わりを思い出す度、私は揺らいでしまう。
「どうせ離れてしまうなら、居なくなってしまうなら…。」
涙が溢れた。これは自分の弱さの証。こんなの、ただのわがままにすぎない。
私は…弱い人間だ。私が臆病なだけ…。だから、もうこんな私と関わらない方が良いんだ。迷惑しかかけない私はそばに居ない方がいい…。そう決めた。
なのに…
「お前の方が勝手じゃん。」
空気がガラッと変わった。今まで黙っていた佐々舞尋は私との距離を縮めるようにゆっくりと私に近づいてくる。
「お前が決めたことだからって…俺の意見は無視か?俺の気持ちも無視かよ…。」
涙を雑に拭った顔をあげた私の目には、真剣なそれでいてどこか悲しげな佐々舞尋の顔が映った。
佐々舞尋の…気持ち…?
黙る私に佐々舞尋は続けた。
「俺が…何でお前に俺の後を継がせたか…わかるか?」
初めて聞く話だった…。そんなこと…考えようとも思わなかったから。
「その様子じゃ…考えてもくれなかった…か?」
心を見透かされた気がした。それと共にどこからか罪悪感さえも生まれた。
「…お前は、なんか勘違いしてるよ。俺はお前を置いて行きたかったわけじゃない。」
…なにそれ…どういうこと?
置いて行くつもりじゃなかったなら…どうして…?
「…お前との繋がりが欲しかったんだ…。」
まっすぐに私を捕らえる佐々舞尋の瞳から私は逃げられなかった。
「確かに、形上はお前を置いて行ったように思われたかもしれない…。でも、俺は、ちゃんとお前に安心して欲しかった。自信を持って欲しかったんだ。」
佐々舞尋の考えていた私の知らない本当の理由。
それは、全部私のためだった。佐々舞尋達と現役で生徒会をやっていた時の私はなんとなく自分を出すのが苦手で仕事をしっかりこなすことで精一杯だった。
誰にも見られていないと思っていた。気づいて欲しいとさえ思ってもいなかった。けど…
「俺は…全部知ってる。お前が誰よりも頑張っていて、仕事に前向きだったってこと。自分に自信を持てずにいるお前はガサツなくせに繊細で、自分のことはいつだって後回し。そんなお前だからこそ、俺の後をついで欲しいと思った。そんなお前にしか継げないと思ったし、他のやつに継がせたくなかった。俺が認めてたのはお前だけだったから。」
…知らなかった。いつも見ていてくれたことも、そんな風に考えてくれていたことも。
「それに…」
私の前までやってきた佐々舞尋が急に頬を赤く染めた。耳まで赤くして…。
「俺がお前を選んだ、その繋がりが欲しかったんだよっ。」
恥ずかしそうにそう言った佐々舞尋につられて私まで赤くなった。
それって……
「そんでもって、今の俺にもお前が必要なんだ。…またそばにいてくれないか?」
真剣な目だった。
返事なんてとっくに決まっていた。私は…誰かに必要とされたかったのかもしれない。誰かに、そばに居て良いんだって言って欲しかったのかもしれない。
私は寂しかったのだと、今頃になって気づいた。
いつだって、私が前に進むチャンスをくれるのは佐々舞尋なのだ。
勇気を出せ。佐々舞尋が私を受け入れてくれた。今度は私の番だ。…
「…本当に…後悔しませんか?…私なんかで…良いんですか?」
最後の勇気が出なくて、やっぱり怖くなってしまう…。だけど…。
「お前以外、受け入れる気ないから。」
この人の言葉はまっすぐすぎてズルい。…けど、そのまっすぐな言葉に私は救われてきて…今も救われた…。
「最初はお前がこの学園に来てたなんて知らなくて、ミサキに先越されたけど、今度は俺から招待させてくれ。俺たちの生徒会に入ってくれるか?」
不安そうな顔で私を見つめる佐々舞尋。胸の奥が温かくなって、思わず笑みがこぼれた。
はい…。…返事をする気満々だった私を…。
「はい、そこまでぇ〜。」
どこからともなく現れた3人組。…嘘でしょ?
「世話が焼けるねぇ〜君たちは。」
わざとらしいくらいに声を張るミサキ先輩が先頭をきる。
「舞尋って…案外大胆なんだねぇ。」
よくわかんないけど、感心するユキ先輩。
「いや、俺は覗き見なんて反対したんだけど…。」
申し訳なさそうに私達に頭を下げるカオル先輩。
「じゃぁ、とりあえず生徒会室に戻るとしますか。七瀬の歓迎会でもしよう。」
ミサキ先輩は流れるように私の手を引き、生徒会室に向かう。
「なっ…お前らっ‼いつから見てたんだ⁉」
そんな中1人焦る佐々舞尋。
だけど佐々舞尋の声を聞き入れる人は誰一人いなかった…。




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