本当はね…。

「じゃぁ、改めまして…。」
生徒会室に戻り、ミサキ先輩が生き生きとした様子で仕切り始める。
「七瀬が生徒会に入ってくれるということで…新生徒会をここに結成します。」
相変わらずの微笑み。
「今度こそよろしくな、千咲ちゃん。」
カオル先輩も…。
「僕もっ‼チサちゃんと一緒に生徒会やれるなんて、嬉しいっ。」
ユキ先輩も…。私はあんなに酷い態度をとったのに…。この人達は、こんなにも優しかった…。この人達はきっと…顔だけじゃなくて、ちゃんと中身もかっこいいんだ…。だから、みんな彼らに惹きつけられる。今ならわかる。
「…で、舞尋はいつまで拗ねてんだよ。」
生徒会室の端で小さくなっている佐々舞尋。さっきのことがよっぽど恥ずかしかったらしい。
「俺…お前ら…嫌い。」
小さい子供のようにグズってる佐々舞尋の後ろ姿に思わず笑みがこぼれた。
変わってないんだな…本当に。
そう思った。すると…
「うわ……。」
私に背中を向けている佐々舞尋以外の3人がこちらを見て固まった。
…え?なんかまずかった?一気に不安になった…。
私が首をかしげると…
「チサちゃんて……やっぱり可愛いんだ…。」
カオル先輩の言葉にユキ先輩も、ミサキ先輩さえも大きくうなづいた。そして、佐々舞尋がものすごいスピードでこちらに振り返った。
……
「ちょっ、からかわないでくださいっ‼」
揃いも揃って年下をからかいやがって…。私の顔は真っ赤だった。
「チサちゃん、もう一回笑って?僕見たい。」
ユキ先輩がここぞとばかりに可愛くおねだりしてくる。いやいやいや…。笑ってって言われましても…。
「七瀬…お前って…笑うんだな。」
ミサキ先輩まで…。それは褒められてるんでしょうか…。
「ちょっと先輩方いい加減にし…」
恥ずかしさで叫びそうになった私の言葉を…
「お前ら、いい加減にしろっ‼」
佐々舞尋が遮った。
しかも…なんか…怒ってる?
皆驚いていた。が、すぐにミサキ先輩は理解したように微笑んだ。
…うるさかったのかな?
「何怒ってんだよ、舞尋。」
カオル先輩が佐々舞尋をなだめるように声を掛けた。
すると佐々舞尋は私に視線を向けた。
「おい、七瀬‼」
…え、何?
「お前、俺の言ったこと忘れたのか⁉」
………。言われたこと?なんかあったっけ?……あっ。
思い出した…。
「お前は笑うと事故るからやめとけって言っただろーが‼」
たしかに中学生の時に一度言われた。
…でも…。
「事故るってなんですかっ⁉私がいつ笑おうが私の自由ですよね⁉」
今さらだが、事故るって…ひどくない⁉
「うるせぇ。お前は笑うなっ‼」
佐々舞尋の理不尽なセリフに腹が立った。
「はぁ⁉なんで、貴方にそんなこと決められなきゃならないんですか⁉意味がわかりません。」
「だいたい、お前は隙がありすぎんだよっ‼」
「貴方に関係ないでしょ⁉だいたい、お前お前って、私には名前があるですっ‼」
…いつの間にか口論に…。
ミサキ先輩は慣れているが、その他の2人は唖然としていただろう…。
「お前は…本当に可愛くねぇなっ‼」
「……っ。」
………。わかってる…。何度も言われてきた。喧嘩するたび、私に可愛げがないことを思い知らされてきた。…けど。
「おい、舞尋。今のは…。」
カオル先輩が口を開いた…が。
「知ってますぅ。別に貴方に可愛いと思われる必要ないんでぇ。」
私は舌をだして、負けじと対抗した。
佐々舞尋は血管を浮かび上がらせる。
「てめぇ…。ちょっとは女らしくなると思ったのに…全然じゃねぇかっ‼」
嫌味に嫌味で返された。
…私だって…本当は………。
「貴方の方こそ子供っぽさが極まっててびっくりしましたよ。」
しれっと嫌味を倍返し。
「てんめぇ…」
佐々舞尋も限界がきたらしい。すると…
「はいっ、そこまでぇ。お前ら仲良くしろよぉ。もう、中学生じゃねぇんだぞ?」
ミサキ先輩が間に入って止めてくれた。あの時と変わらずに…。
変わってしまったのは…私の気持ちだけ…。
知ってしまったらいけない気持ちを知ってしまっただけ…。
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