本当はね…。

覚悟を決めてスプーンを握る。
一口分すくってから…。
「…ふぅー、ふぅー。」
……冷めたかな?
不安になりながら手を添えて佐々舞尋の口にスプーンを運ぶ。
「はい。」
「…ん。」
無事運び終わった。
この数秒でかなりの緊張。普段こんなに近くで男の人の顔を見ることもなく…。
唇薄いなぁ…、とか思ったりした。
けど、すぐに距離をあける。緊張を紛らわすため、無駄にキッチンを見回す。
………なんか、食べてもらったら食べてもらったで緊張する。さっき味見はしたけど、私の味覚変じゃないかな、とか。不味いと思われたらどうしよう、とか。
数秒の沈黙。その後…。
「…お前…。」
佐々舞尋が口を開いた。ドキドキだ。………。
「本当に天才なんじゃね?」
「………。」
それは……。
「めちゃくちゃ美味い。俺は好き。」
……。それって…。
「ホント⁉良かったぁ。」
普通に嬉しい。ていうか、かなり嬉しい。不安が一気に吹っ飛んだ。思わず素で喜んでしまった。
「……あ…あぁ。美味い。」
気を遣って言ってるようにも見えなかった。それが余計に嬉しかった。
「じゃぁ盛り付けますね。卵も作らないとだし。」
「……あぁ。…そうだな。」
心なしかさっきよりも佐々舞尋の歯切れが悪くなっている気もした。…が気のせいだろうか。
本当に心臓に悪い人だ、この男。
心臓がいくつあっても足りないよ。
もう…隠し通すのも限界かもしれない。
閉じ込めていた感情も。私の…気持ちも。
< 40 / 49 >

この作品をシェア

pagetop