本当はね…。

………。
「ごっちそうさまぁ。美味しかったよぉ、チサちゃん。」
「オムライス好きのユキ先輩に褒めてもらえると自信になります。」
そろそろ全員食べ終わる雰囲気。
ミサキと七瀬以外は食べ終わった。…あ、ミサキも今食べ終わったみたいだ。
「…んじゃ、そろそろ片付けるか。」
俺はそう言って立ち上がる。それを見て七瀬が焦る。
「や、お前は食ってていいから。焦んないで食え。」
焦って詰め込んでむせる七瀬には言うのが少し遅かったようだ。
「…げほっげほっ。あ、はい。ありがとうございます。」
本当に気遣い屋なんだよな、こいつ。
そんなことを考えていると…。
皿を片付け始める俺を、急に七瀬がみつめはじめる。
……な、なんだ?なんで見られてんの俺。
何故か淡い期待を胸に俺も七瀬をみつめ返す。すると七瀬の唇が動いた。
そして…。
「あの…。」
遠慮ぎみの七瀬。俺は思わず唾を飲む。
なぜか高鳴る鼓動。いやいや、落ち着け俺。期待なんかして良いことなんて…。
「すいません。お腹一杯になっちゃいました…。どうしましょう…。」
「………。」
やっぱりな…。そんなことだろうとは思ったよ。思ったけども‼
…俺がバカだったんだよな。うん。わかってるさ。
「え。チサちゃんもう食べないのぉ?じゃぁ、僕が食べるぅ。」
テーブルから離れていたユキが素早くこっちにやって来て七瀬の隣に座る。
違和感の無さに若干腹が立った。
「良いですよ。私の食べかけで良ければどうぞ。」
隣に来たユキの前に自分の皿を流し渡す七瀬。
「わぁーい。」
絵面的には姉弟。童顔なユキは落ち着いている七瀬の横にいると幼く見える。
そんな光景にすら、なぜかイライラする俺。
落ち着かなくて、そばにあったコップの水を飲む。
…。その時。
「あ、チサちゃんと間接チューしちゃったねぇー。」
「ぶっ‼‼‼」
「舞尋ぉ?汚いなぁ。いきなりどうしたのぉ?」
飲みかけの水が勢いよく口から吹き出た。
………な、なんて?今なんて言った?
「ははは。大丈夫ですよ。それ、一回水で洗いましたから。間接チューにはなりませんよ。」
ニコニコしながらユキを受け流す七瀬。
「えぇー。なんだぁ。残念。チサちゃんと間接チューできるチャンスだったのにぃ。」
七瀬の涼しげな笑顔に膨れるユキ。
俺は…なぜかホッとしてしまった。でもすぐに思い出す。
間接…キス?それって…あれだよな。一度誰か他の人が使った物とかを自分がそのまま使うことだよな…?
ん?なんか…。さっきこんなような出来事が…あったような、なかったような…。………

『味見してみます?』

………。
わりと新鮮な記憶。……ん?味見?
あれ…?俺、あの時どうやって味見したんだっけ?………っ‼‼‼⁉
「か、か、かかか間接…ち、ち、ちチュー?」
動揺が隠せない。まともに喋れない。俺はあの時なんてことを…。
しかも、食べさせてもらわなかったか?………。
俺は…なんてことを…。
今になって恥ずかしくなってきた。逆になんであの時の俺は大丈夫だったんだ⁉謎すぎる。
待て。一回落ち着こう。
深呼吸…。もう一回深呼吸…。
………。
もう一口水を飲む。
「あ、舞尋が飲んでるやつチサちゃんのお水だよぉ。」
「ブフゥーーーーーーーっ‼‼‼」
「ちょっ、またぁ?舞尋汚いよぉ。」
さっきよりも勢いがでてしまった。
「わ、わり。今新しいの持ってくっから。」
「いや、大丈夫ですよ。」
動揺が隠せない。なんてことだ。これも間接キスじゃないか。
俺は…なんてことを…。
変な汗まで出てきた。心臓がうるさい。
チラッと盗み見ると七瀬はいつもどおりの様子で、ユキがオムライスを食べているのをみつめている。
………。気にしてないようだ。
良かった…のか。少し複雑な気持ちでもあった。
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