本当はね…。

「えっ。じゃぁ、千咲ちゃんて舞尋とミサキの後輩なんだ。」
なぜかわからないが、朝のLHRのチャイムが鳴った後なのに、私はまだ生徒会室に居た。そして、カオル先輩とユキ先輩に質問攻めにあっていた。
「ていうか、僕達の自己紹介してないよね。」
いきなりユキ先輩が立ち上がる。
「とりあえず、僕からね。」
まだ入るなんて言ってない私のことは無視の彼ら。ていうか、本人達は知らないのか?彼らが学園内で相当の有名人だってことを…。
「白坂雪だよ。女の子達からはユキちゃんって呼ばれてるから、千咲ちゃんも好きなように呼んでね。あっ、じゃあ僕千咲ちゃんのことチサちゃんて呼ぶね。よろしくぅ。」
最後にニコッと笑って座るユキ先輩。この笑顔の裏は真っ黒なのかと思うだけで恐ろしい…。
「じゃぁ、次は俺な。」
ユキ先輩が終わったのを確かめると今度はカオル先輩が立ち上がる。
「名前は蒼宮馨。好きなように呼んでもらって構わないよ。俺は千咲ちゃんって呼ぶから、よろしく。」
爽やかオーラ全開のカオル先輩。この笑顔にやられるのか、女子生徒達は…。無理もない…。
私としては初対面の2人だ。先輩であることには変わりないし、別に害はなさそうだから仲良くしておこう。なんて思っていると…。
「じゃぁ、僕たちも自己紹介しといた方が良い?」
今まで加わってこなかったミサキ先輩が2人の先輩に問う。
「当たり前だろ。礼儀は大切だからな。」
カオル先輩がそう促して、ミサキ先輩は相変わらず微笑みを崩さずに立ち上がる。
「じゃぁ、とりあえずね。久しぶり、七瀬。名前は覚えてるよね?ちなみに、七瀬を生徒会に招待したのは僕だったりする。よろしくね。」
…。
できれば、この人にはよろしくされたくない…。この笑みの根では何を考えてるのか…。恐ろしくて考えたくもない…。
「そんじゃ最後は舞尋だな。」
カオル先輩が視線を向ける。
「俺はいいだろ。」
視線に気づいた佐々舞尋は軽く拒む。
「だぁめ。舞尋もやるの。」
ユキ先輩が少し離れた所に居た佐々舞尋を連れてきた。
「はい、どーぞ。」
ニコニコしながら自分の席に戻るユキ先輩。
「どーぞって…。」
困ったような顔をしてから、ふと私と佐々舞尋の視線がぶつかった。そして、諦めたように佐々舞尋もそばの椅子に腰を下ろす。
「えっとー…。佐々舞尋…です。よろしく…。」
歯切れの悪い自己紹介。
……この感覚…知ってる。ダメだ…。思い出すな…。
必死に自分に言い聞かせた。
「はい、じゃぁ、千咲ちゃんね。」
嬉しそうな笑顔で私を見つめるカオル先輩とユキ先輩。2人の横では、違った笑みを浮かべるミサキ先輩。
……。私…。
「あの…。」
この空気を壊すのにはだいぶ勇気が必要だった…が…。
「私、生徒会に入る気無いんで。」
一瞬にして空気が壊れたことくらいわかってる。
「え…。」
カオル先輩は困ったような顔をした。
「もとから、今日はなんで私が生徒会に招待されたのかを聞きにきたわけですし。それに入る気も無いので…。」
重い空気を断ち切るかのように私は伝えたかったことだけ言って立ち上がった。
「じゃあ、失礼します。」
これ以上、この場所にいたらいけない。
じゃないと…私は…。
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