初恋!応援団

「服、着替えなくても良かったかな?」

私は、家に帰って。
急いでご飯を食べて。
雅に馬鹿にされるのだけは避けようと、
タンスを引っかき回して服を用意した。

中学生になってから、登校時は制服。
休日も祝日も部活でジャージ。

着替えといえばその
2つしか着なかったから、
久しぶりに服を選んで、変な感覚...。

センス狂ってないよね??
おかしくないよね??
絶対に馬鹿にされたくない!

そんなプライドを懸けて選んだ服は
万人受けするような、普通な感じ。

胸元に小さなリボンが付いた
薄い灰色のボーダーTシャツ
七分袖で薄ピンク色をベースにした
白い水玉柄のパーカー
裾が数回折られた
デニムのショートパンツ
靴は念のため、動きやすいように
チェック柄のスニーカーにした。
携帯と
2000円ほどしか入っていない財布を
白いトートバッグに突っ込んで
いざ銀杏橋へ!


「あ、」

「おそ......。」

ちょうど、
約束の陸橋の真ん中らへんで
巨人を発見。
真っ黒で無地のパーカーに
膝丈でダボっとした
ベージュ色のズボン。
深緑のリュック。
履き慣れたようなスニーカー。

「おそって、急いで来たんだけど。」

ご飯、詰まらせながら
食べてやったのに。
遅い、だって。

「来ねーかと思った...。」

「なんでよ。
行くって言ったじゃん。」

「あー。うん。」

こいつ、私の話し
聞いてたのかな....?

「で、どこに行くの?
何の用?」

「ついてきて。」

「あ、ちょっと!」

また、1人でズンズン進んでく。
置いてかれそうになる。

「ったく、トロ。」

「うるさいなぁ、
 雅が早いだけ!」

小走りで追いつく。

「で?
 どこ行くの?」

しつこく聞いた甲斐もあってか、
『いい加減、うるさいなぁ。』
と言いたげに
雅は口を開いた。

「・・・川。」

「は?」

川、って言ったよね?
耳を疑った。

「川、だよ。」

「なんで??」

「・・・・・・。」

「川?」

「か、わ。」

子供みたいに繰り返した。

「なんで?」

「うっせーな、
 付いてくればわかるから。」

面倒になったのか、
答えてくれそうにない。

今日1日で、
こうゆう時、こいつは
答えてくれない。
ってわかったから。
黙って付いてくことにした。

その後は、やっぱり
何を話すわけでもなく。
私は精一杯、雅に歩調を合わせて
ついていった。

ー5分くらい経った。
『並木町 木ノ葉河川』

「ここ?」

「うん。」

何も言わずについてきたら。
この町の中央にある
小さな川についた。

春のサクラが散っては、舞い。
川に流されてゆく。

「こっち。」

「え?」

河川の坂を勢いよく降りる。

何をしに来たのか、早く知りたい。

「まってよ、雅!
 なにしに・・・。」

雅は、ひと気の少ない
橋の下に向かった。

そこは、橋台と草に囲まれて
ちょっとした空間になっていた。
秘密基地みたいだった。
意外と大きくて
雅でも、体をかがめなくても
立っていられるようだった。
そんなところを、
あさって・・・る?

遠目ではわからなかった。

『なにしてんの?』

駆け寄ってみると

小さなダンボール箱がみえた。

「なに?これ・・・。」

「んー。」

雅は一度顔を上げ、
私がいることを確認して。

「ばっっ!」

勢いよく振り向いた。
何かを私の顔の近くまで持ってくる。

「ぅっわ!!?」

「びっくりした??」

雅のいたずらっぽい声が聞こえる。

茶色っぽいモノで
視界が埋め尽くされる。

何!!?

慌てて確認すると・・・

「シバ、イヌ?」

「そー、
 今日の朝みつけたんだ。」

雅は、
無表情のまま
その愛くるしい柴犬を
大事そうに抱えて
その場に腰を下ろした。

私もつられて、しゃがみこむ。

「ってか、かっわい~!」

ちょっと元気がなさそうだった。
目を伏せて、
クゥーん。と唸るだけだ。

「捨て犬だよ、
 置き手紙もあった。」

雅は、ガシガシっと
その犬をなでた。

「....そっかぁ。」

抱かせて?
と雅に手を広げると、
そっと膝におろしてくれた。

犬は力なく私に身をゆだねた。

毛並みは土で汚れていていて、
撫でようとすると指に引っかかった。
服が汚れたけど、気にならなかった。

「飼うの?」

「迷ってる。」

犬に手を伸ばして、また
ガシガシっとなでた。

「なんで?」

「だって、
 ちょっと離れたら。
 ...死んじゃいそうじゃん。」

でも、朝見かけた犬を
わざわざ見に来るってことは
嫌いじゃない証拠なんだろう。

「可愛がってあげなよ、存分に。」

「ぅーん、凛は?」

「え?」

「飼えんのかよ?」

「あー、ぅーん。」

別に無理ではない。
けど、住宅街だし。
近所迷惑だとみなされれば、
このワンちゃんは
またココに戻ってくるかもしれない。

「お前、うち来るか?」

雅が、私の腕にうずくまっている
ワンちゃんに話しかける。
雅にしては珍しく、
とっても優しそう顔だ。

「クゥーん・・・。」

唸った。
勝手に解釈して

「いくって。」

私が言うと

「ホントかよ?」

雅が笑った。

初めて見た笑い方だった。
あのニヤっとした感じじゃない、
心から笑ったような表情。

「飼う?」

私がワンちゃんを差し出すと、

「じゃぁ、飼うわ。」

受け取って、愛おしそうに抱いた。

「名前は?」

「明日きめるよ。」

「あたしも考えるっ!」

一瞬、鬱陶しそうに睨まれた
けど。

「好きにすれば?」

「やったぁ!
 考えとくよ!!」

「好きなの?犬。」

「うん、カッワイイよね~。」

「ふーん。」

興味なさそういう。

「そういえばさ、
 なんで私のこと呼んだの?」

「なにが?」

「いや、ここに。
 私じゃなくても
知り合いいたでしょ?」

ずっと、気になってたことだった。
しかし

「なんとなく。」

この一言で突っ返された。

「なんだそれ・・・。」

私はワンちゃんを、よしよしとなでた。
なんか元気無いけど、
ちゃんと洗ってあげて
綺麗な首輪をつけてあげれば
きっとカッコ良い犬になるだろう。

気づけば、空が赤く染まっていた。

「帰る?」

「あ、うん。」

雅が立ち上がるまで、
時が経っていることに
気がつかなかった。

「明日、6時にさ。
 あの橋に来いよ。」

「え、はやっ!?」

「凛、5時起きだろ?
  間に合うって。」

「いや、なんで?」

「コイツの散歩、来るだろ?」

...あ、答えてくれた。

朝からワンちゃんの散歩・・・
一度やってみたかったんだ。

「い、行く!!」

「で、そのまま
 野々宮のとこ行こうぜ?」

「うん、遅れないで行かなきゃ....。」

約束を思い出した。
遅れたら、きっと怒られる。

「この犬のこと、誰にも言うなよ。」

「なんで。」

「なんと、なく。」

「やっぱりか。」

今日1日で、こいつの
理不尽な解答にもなれた。

これで、私たちが出会った。
記念すべき最初の日が

終わろうとしていた。
  

























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