異邦人の集うカフェ(「一緒に暮らそう」番外編)
「ところでお客さんはどうしてこの町にある大学を選んだのですか」
 女主人が話を変える。
「それは……やりたい分野がそこで勉強できるからです。院試の前に研究室の教授とお話をさせていただいた時、そこでなら自分の専門を深めて、二年後に希望する仕事に就けるのではないかと思ったんです」
 それは一面では真実だが、ここへやってきた理由の全てではなかった。まさか、男にふられて遠い町へ逃げてきたなんて、他人には口が裂けても言えるわけがない。
「将来は何になりたいんですか」
「え? 将来ですか」
 自分で作った流れとはいえ、意表を突く質問をされた。
 正直、なりたいものなんてそんなにない。二十歳を過ぎてもう数年経ったというのに、やりたいことなんて未だによくわからない。経済学だってつぶしが利きそうだから専攻しているにすぎない。そんな目的意識の低い今時の若者ぶりを露わにするのは恥ずかしいので、茉実は適当な職名を挙げる。
「地元に戻って官公庁に入りたいですね」
「公務員のお仕事に経済学を活かせる分野があるんですね」
「ええ、まあ……お役所には色々な課がありますから、地域経済の活性化のために専門知識が活用できるんですよ」
 我ながら結構適当なことを言ったものだ。公務員は単に安定しているから、なってもいいかなみたいに思っている。
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