異邦人の集うカフェ(「一緒に暮らそう」番外編)
「えらいわ」
 女主人が感心の声を上げる。
「え?」
「毎日、たくさんお勉強していらっしゃるし、若いのに将来的なビジョンをしっかり持っていらっしゃるのね。私が同じ年の頃なんか、フラフラしていましたよ。専門学校も中退してずっとフリーターでしたし。それにくらべるとあなたはしっかりしていますね」
「いや、あの、そんな殊勝な学生なんかじゃないですよ、私なんて」
 適当なことを答えていたら、何か誤解されてしまったようだ。
「でも、今は一生懸命お仕事をされて、家庭と両立なさっているじゃないですか」
「そうねえ。今でもまだまだ勉強中なんだけど、三十を過ぎてやっと地に足が着いた感じですよ。それまでは何をやっても中途半端でした。家族や周りの人たちに支えられて、なんとかここまで来ることできましたよ」
「周りの人たちの支えですか」
 なんとも謙虚な発言である。
「ええ。私も主人も元はよそから来た人間なんですけど、ここで知り合った人たちに生活面でも仕事の面でも色々とお世話になったんです。この町で知り合いが増えて、今ではすっかりここに根付いていますよ。このままこの町に骨を埋めようかって彼と話しているんです」
「よそから来た人間がこんな地方都市に住みついても、意外と友達ってできるもんなんですね」
 地方の町ってどうも閉鎖的なイメージがある。特にこの地域は、東京弁でしゃべっていると浮いてしまう所だし。
「そう思いますけどね。お客さんだってこれから大学や町で大勢の人に出会いますよ。その中で、気の合うお友達だってきっと見つけられるでしょう」
「そうなったら素敵ですね、とっても」
 茉実は女主人の言葉に素直にうなずいた。
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