カワキ

退屈

私は時間をもてあましていた。夜の銀座で働いていたのは5年前。仕事場であった高級クラブで知り会った老人と結婚したのが三年前である。そして昨日彼が死んだ。わたしに、吐き気をもようすセックスの記憶と多額の遺産を残して─。
夫の通夜で焼香を終えて銀座時代には私と寝た事もあるどこかの会社の重役たちが喪主であるわたしに一礼してまるでベルトコンベアの上の缶詰のように通りすぎてゆく。
私はそれに合わせて会釈をしつづけた。あの老人の妻としての最後の仕事であった。そう思えばこの虚しいだけの無駄に金のかかった男達の集会のような葬儀も悲しみに暮れる若妻を演じてやるくらいの事はできるとかんがえていた。
私は夫の葬儀の時間をもてあましていた。
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