カワキ
 数日後─。通夜も葬儀も終わり今日から私は私の為だけに生きていく事が出来るようになった。

ああ、なんて素晴らしいんだろう。まず、老人が大切に大切にまるで葬儀の時の自分自身の様に木箱に寝かせていた彼の産まれ年のワインを私は迷う事なくあけた。生前彼が私に触れることも許さなかったそれはたいして美味い訳ではなかったが、まだ残る彼の執念みたいなものをかんじてそれが気味悪かった。    「シツコイ男は嫌われますわ。年老いていれば尚更ですわよ。」

私は独りで呟いた。ずっとあの男に言いはなってやりたかった言葉だった。

頭の中を私の身体中を本当に足の指の間まで舐め回す老人の恍惚とした顔がチラついて、私は気分が悪くなってワイングラスを置いた。
「貴方のセックスはしつこくて。あれでは愛人もできませんわね。」

独りでに笑いが込みあげるのをかみころした。

「ベットの貴方は犬の様でしたわ。」

ついに私は声をだして笑いはじめた。



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