無花果
待合室で母が来るのを先生と待っていると、母が走って病院に入ってくるのが分かった。

「お母さん」

オレが声をかけると、母は目にたくさん涙を溜めてオレを抱きしめた。

「怪我は?痛くないの?天耶」

と聞かれて、無いと答えると母は良かったと何度も言った。

身体を離されて、母が姉の方に向かって行った。オレと同じように抱きしめるのだろうと思っていたら、

バシッという鈍い音が聞こえた。

姉の細い身体が椅子に叩きつけられて、床に蹲った。

先生も病院の受付の人も時が止まったように動かなかった。

「あなた、天耶に恨みでもあるの?どうして、天耶がこんなことに!やっぱり私たちに恨みがあるからこんなことを!あなたの母親が自殺したのを私のせいだと思ってるから天耶がジャングルジムに落ちるまで何もしなかったのよ」

母が何を言っているか分からなかった。ただ、姉を責めているのだけは分かった。

分かっていたのに、余りの母の剣幕にオレは何もできずに立ち尽くしていた。

姉はゆっくりと立ち上がった。叩かれたせいで、傷口が開いて眼帯に血が滲み出て、姉の頬を伝って流れた。

まるで血の涙を流しているような姉をみて、母が我に返った。
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