無花果
「今でも思いだせる。お母さんは眠ってるみたいだった」

「人の口に扉は立てなれないって言うじゃない。近所の人たちが、お母さんはお父さんが浮気をしてたから、自殺したって言ってた」

「その相手って・・・」

「天耶のお母さんだよ」

真実は次から次へと明るみになって行く。

「10年前のお母さんの言葉を聞いて、実感してっていうか、近所の人の言ってたことは本当だったんだって分かった。でも、私はどっちのお母さんも恨んでないし、お父さんのことも分かってるつもり」

姉は重い事実をそんな昔から一人抱えて生きてきたんだと思うと、オレの心も苦しくなった。

「だからバイトを始めたの?この家を出て行くために」

「それだけじゃないけど、それが目的でもある。もう時間がないから私も必死なの」

「何が必死なんだよ?」

「天耶にだけは教えてあげる」

椅子に座っていた姉がオレの隣に来た。ふわりとどこか甘い、姉の香りがした。

「私、結婚するの。高校を卒業したら」

驚きで声も何もでなかった。
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