無花果
部屋で勉強していると、玄関の開く音がした。時計を見ると10時は過ぎていた。

誰が帰って来たかははっきりしている。

「お帰り、姉さん」

リビングに入ってきたオレを見て、姉は驚いたような顔をした。

「ただいま」

「なんか食べる?母さんが一応、姉さんの晩飯作ってたけど」

ペンをおいて話しかける。
この一時でも幸せを感じる。

「食べてきたから」

「そう。バイト大変なのか?」

「どうして?」

「最近、毎日こんな時間じゃないと帰ってこないから」

「そんなことないよ」

「でも、あんまり襲いと心配だ。姉さん、美人だから襲われたらどうすんだよ」

さりげなく彼女を美しいと言えた。

「馬鹿ね。そういうことは、彼女に言ってあげなさい」

笑った顔は、初めて出会った時と同じ、ガキだったオレでも分かるくらい、姉は可愛いらしかった。

「彼女なんていないし」

「そうなの?天耶(たかや)はカッコイイからもういると思ってた」
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