僕が愛した君と夏。
「お前だけ特別だ。今月いっぱいまで待ってやる」

書類で俺の頭を叩きながらそういった。
空っぽの俺の頭からはどんな音が気こえたんだろう。

「俺はな、待てるんだよ」

先生はいつも不機嫌だった。

「だけど、待てば待つほどお前が不利な状況になる。
せめて、進学か就職かぐらいはさっさと決めろ」

不機嫌な顔に台詞のように出てくる言葉。
思わず、また、顔を伏せた。

「…はい」

出てきたのはか細くて、かすれた声。
先生の言ってることは間違ってない。全てあっている。
それなのに、素直に聞けない。
素直に返事もできない。
案の定、俺の声は先生に届かなかったようで、

「もう教室戻ってさっさと帰れ」

と、顔も見ずに言われた。
俺も顔は見てなかったのだけれど。

「失礼、します」

頭を下げて教室を出た。
すごく泣きたい気分になった。
理由はさっきのことのせいじゃないはず。
じゃぁ、なんでこんな気持ちになるんだろう。
悩めば悩むほど悲しくなった。
その時の俺は、情けないことに廊下で泣き出してしまった。
嗚咽も止められなくてひたすら泣いた。
すれ違うやつも何事かと思っただろう。
すれ違ったやつがいたかさえもわからないけど。
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