迷子のゆめ
迷子のゆめ
ここは、画面の中の世界。
窓の外を見ると、暗闇の中に淡く光る「窓」がいたるところで開いては閉じ、開いては閉じを繰り返している。
あの「窓」の向こうにはその窓を開く者達がいる世界に繋がっている。
しかし、画面の中の住人は「窓」が開いているからといって自由には近づくことは出来ない。
近づいても凄まじい力で弾き飛ばされてしまうのだ。
そんな住人達がその窓へうつるための唯一の方法。
それは、「窓」の向こうにいる者達が「検索」や、「ホームページを開く」などによって住人達のうち、誰かを選ぶ。
選ばれると、強制的にその窓へ引っ張られて行き、住人が窓に近づくことができる。
今もこの世界の住人達が、自分が呼ばれた「窓」へめまぐるしく行き来している。
当然ながら彼らには自我というものがない。与えられた役割を、ただ黙々とこなすのみである。
しかし中には忘れ去られた住人達もいる。なんらかの理由で、呼ばれなくなってしまった哀れな住人達。
いっそ、デリートされてしまえばいいのに、ただただ朽ちるのを待つ。
では、もしその「哀れな住人」達が自我をもったなら?
彼らはどうなるのだろうか?
彼はいつもと変わらない退屈な外に見飽きて、カーテンを閉めた。
それから、お気に入りの揺り椅子のクッションに腰をうずめる。
ずれた丸めがねを押し上げて、着物をすこし崩す。長年の彼の癖だ。
ここは「ハイドアウト」。
暗闇の中にある、小さな店。
小さなログハウスのような店の作り。
狭く感じるのは天井から釣り下がる大小のランプの数々や、所狭しと置かれた本のせいだ。
妙に居心地が良いのは、適度な生活感と室内を柔らかく照らしてくれるランプ達のおかげだろう。
いつからここにあるのか。
どうして彼がここに存在しているのか。
どうして自我を持ってしまったのか。
それは彼にもわからない。
いや。忘れてしまったぢけかもしれない。
気づけば、この店があって彼がいた。
しかして、あやふやなこのハイドアウトには時折客人が訪れる。
願いを叶えるために、藁にもすがる思いでハイドアウトに訪れるのだ。
彼は、店主として彼らをもてなすのだ。
デリートされることもなく、ただ朽ちるのを待つしかない彼らに夢を見せるために。
ーちりん、
入り口のドアについているベルが小さな音をたてた。
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