迷子のゆめ




ーー客が来た。



来訪を告げるベルの音に、彼が愛するお茶の時間は終わりを告げた。
外していた丸メガネをかけて、入り口へ向かう。
本来、宴会場にも使えそうなくらいただ広い部屋なはずだったが、積み上げられた何千という本のおかげで迷宮とかしている。
その迷路を難なく通ることができるのは、ここの店主のみである。





「あ、あの、ここはティアマトさんがいらっしゃるハイドアウトで間違いないでしょうか?


ゆっくりと彼ー...ティアマトが視線をずらすと、本の間から少女がひょっこり顔をのぞかせていた。


「おや、これはこれは。可愛らしいお嬢さんですね。
おっしゃる通り、ここはハイドアウト、私が店主のティアマトです。」



穏やかに微笑んで見せると、少女はホッとしたように表情を崩した。


「あ、あの私お願いがあって、それで、あの...」

「そう焦らずとも逃げやしませんよ。
立ち話も何ですからこちらにおいでなさい。
美味しいお茶をご用意しますよ。甘いお菓子も。お話はそれから伺いましょう。」


にっこり笑うと、少女はおずおずといった様子で店内に入る。
周りの
うず高く積まれた本が気になるのか、始終きょろきょろしている。
それに合わせて、耳のしたでくくられたツインテールが柔らかく揺れた。




さて、今回はどんな願いが訪れたの




「何かお嬢さんの心を引くようなものがございましたか?」
「あっいえ、その、たくさんご本があるなって、おもって...」
「ええ、そうでしょう?
ちょっとした自慢なんですよ。
私はこれがないと生きていけないのでね。」


本の山の間を縫うようにしながら、少女を椅子のある場所まで案内する。


店、と言いながらも本の倉庫のようなここはティアマトの案内がなければ、誰一人として本の山を崩さず移動する事は出来ないだろう。


「どうぞ、こちらにおかけください。
ああ、そこらにある本に触れないほうが身のためでございますよ。」

少女は伸ばした手を慌てて引っ込めて代わりに自分のワンピースをぎゅっと握った。


「あ、の、ここにある本はどんな....?」
「なに、たいしたものではございません。ただの夢です。」

「夢...?」

「ここの本達は、お嬢さんのようにこの店に訪れた願いの夢です。」


なおも首を傾げる少女の前に緑茶とお菓子を置いて、向かいの椅子に座る。

「さて、お嬢さん?難しいお話はこれくらいにして、そろそろお嬢さんのお話伺いましょうか。」




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