視線の先
電車
ガタンゴトン
ガタンゴトンー…
今日も一時間半、
電車に揺られながらの通学。
『三代ー…三代です。乗り換えのご案内を致しますー…』
地元の駅から満員電車を5駅乗った三代駅では街中へ向かう線への乗り継ぎがあるため、たくさんの人が降車していく。
「ふぅー…」
椎名鈴香(しいな すずか)は背負っていたギターをおろし、ガラガラになった車内の端っこの方の席に腰掛けた。
あと、2駅。
あと、2駅越えたら乗ってくる。
そわそわしてくる。
『西野ー…西野です。お降りの際はお足元にー…』
あ、来た。
鈴香は、自分にもたれかかるように立てていたギターに顔を伏せ、少し経ってからちょっとだけ顔をあげた。
やっぱりかっこいいー…。
視線の先には身長180cmぐらいの長身で、坊主頭の爽やかな青年。
はやせ るい
っていう名前は、名前入りのエナメルバッグで知った。
ローマ字で印字されていて、その下にはbaseballtimeと書いてある。
女子校に通う鈴香にとって、気になる彼に声をかけるという選択肢なんか到底なくて、ただ朝見かけることができるだけで幸せだった。
彼が乗ってきてからの学校の最寄りの駅に着くまでの間、鈴香はちら見してはギターに顔を伏せるを繰り返した。