恋愛歳時記
突然、隣で、「だぁーっ」という声が聞こえた。
何事?

今の征司さんよね。
会社でクールでかっこいいと評判の征司さんよね。

征司さんは髪の毛をガシガシを搔き混ぜていた。

そして思い切ったように言った。

「香奈、お前、結構『巨乳ちゃん』だろ。そのニット、かわいいけど胸が目立つ。どこ見ていいか分からん」

それから堰を切ったように続けた。

「店の男性客のほとんどが、コートを脱いだお前をマジマジ見てた。最初は気にならなかったけど、何人かはずっとお前の胸を気にしてた。しかも、お前、全然気づいてないし」

「いやいや、視線は感じてたけど。『巨乳ちゃん』なんて言われるほどじゃないし。征司さんのイケメンぶりが気になったのかと思ってた・・・」

「あのな。ただデカけりゃいいってもんでもないの。グラドルの風船みたいなのはシリコンも多いってわかってるし、形だとか、柔らかさだとか・・・。とにかく、あいつらはお前の胸見て、妄想してたぞ、絶対。それが気に入らなかったの! 俺だって直視できなかったのにジロジロ見やがって。それが悔しかったの! すみませんでした!」

「なんかビミョーに逆切れされてる気がするんだけど。じゃ、とりあえず私はどうしたらいいのかな?」

ボソッとした声で答えが返ってきた。

「そのニットで会社に行かないでくれ。とにかく、女ともだちと出かけるときも。宴会では厳禁」

「じゃ、いつ着ればいいのよ」

「・・・」

「征司さん?」

「・・・俺の前だけにしといてください」

えーと、30過ぎのイケメンが俯いて、小声で何か言ってます。
さっき、「どこ見ていいかわからん」とか言ってなかった?
私のEカップ(しかもD寄りのなんちゃってE)の胸で、こんな征司さんが見られるなんて。

「わかりました。征司さんとふたりだけの時に着るね」

でも、いろいろと気を遣わせてくれたお礼はしとかないと。

「でも、意外だったなあ。征司さん、『おっぱい星人』だったんだね」

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