恋愛歳時記
征司さんは駅から5分ほどの賃貸マンションに暮らしている。
私のアパートより1ブロック駅に近くて、広い。

なぜ知っているかというと、半年ほど前に兄夫婦が遊びに来たとき、私の部屋では狭いので3人でお呼ばれしたから。

意外だったのは、掃除したっぽいのに雑然とした印象の室内に女性の影響が全く感じられなかったこと。

雑然としているのは仕事が忙しいから仕方ないのかもしれないけど、思った以上に男らしいというか、さっぱりとしたインテリアだった。

そして今、目の前に広がるのは、イスの背にかけられた何枚ものワイシャツ、ソファの上の洗濯物、テーブルに山積みになった新聞紙だった。

「悪いな汚くて。全然片付けられないんだよ」

そう言って征司さんは無造作にソファから洗濯物の山を取り除いた。
どうするのかと思えば、そのまま床へ置いた。

「とりあえず座れ」

促されてソファに座る。

12月の寒空の下、くたくたになったボーイフレンドデニムに長袖Tシャツとカーディガン、上にフリースを羽織っただけの私は冷え切っていて、少し震えていた。

そんな私を見下ろして「ちょっと待ってろ」と言って、征司さんはバスルームへ消えた。

ふと床を見ると、自分の足が目に入った。
素足でクロックスを履いていた私の足は、全く血の気がなく不気味なほど白かった。

そういえば、足元に気付いた征司さんに「バカ」とまた怒鳴られて、このマンションまで引きずられてきたんだった。

少しずつ暖かくなっていくエアコンの風と、征司さんの立てる物音に、私の心が落ち着いていく。

目を閉じると、征司さんの残り香がした。
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