恋愛歳時記
ふと足元に征司さんの気配がした。
目を開けると、征司さんの後頭部。
フサフサの黒髪に、男性じゃないけどちょっと嫉妬した。
隙のないイケメンめ。

ぼんやり眺めていた私を尻目に、征司さんは私のジーンズの裾を折っていたらしい。

「征司さん、何してるの」

「うん、ちょっと両足上げろ」

両足首の裏側に征司さんの手が添えられて私は足を上げた。

すぐに下された先には熱いくらいのお湯が半分入ったバケツ。

ホッとしてため息ではない吐息が漏れた。

「女なんだからさ、冷えには気をつけろよ」

征司さんの声はやさしい。
そして膝に添えられた手から暖かさがしみこんだ。

「なあ」

征司さんは顔を上げてくれない。

「課長のことは勘弁してやれよ。あの人、一昨日の会議でお前と渡辺さんの自慢をしてたから、ミスが発覚してバツが悪かったんだろ」

思わぬ言葉に声が出ない。

「会議で各課の人員の話が出たんだよ。そん時に、お前ンとこの課長が『ウチは2名足りないくらいで頑張ってるんだ。もし、市川か渡辺を異動させるなら、その分2名追加しろ』って出席してた人事課長に言ったんだ。確かにウチより事務は数人足りないもんな。それなのによくやってるってのが二課の評判なわけ。課長だってちゃんとわかってる。ちょっとした八つ当たりで凹むな」

「うん」

「あと、なんだっけ? 新人の子? 彼女のことは俺も課長の立場だったら怒らないと思う」

やっぱり征司さんも可愛い子には弱いのかな。
それはかなり哀しいかも・・・。

「でも、佐藤の理由と一緒にすんなよ。可愛いの意味、全然違うから」

は? どういうこと?

「あの子、身長150センチちょっとだろ。痩せすぎだし、目はデカいし。俺には小学生にしか見えん」

目からウロコの理由だった。
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