恋愛歳時記
「小さくて華奢な女性はたくさんいる。5課の伊藤さんだってそうだ。でも、伊藤さんに対して5課の連中はちゃんと女性の同僚として扱う。お前のところの新人は違うんだよ。課長だって叱る価値があるならそうするさ」

征司さんはため息交じりに締めくくった。

「叱って泣かれてちゃ仕事にならない。だったら最初から信頼できる部下に仕事を任せる。お前にミスの後始末をさせたのも、フォローを頼むのも、課長の信頼の表れだ。だから気にするな」

征司さんに両手を握られて、不覚にも再び涙が出た。

「それから川端の件だけど・・・」

「あ、気にしないで。ちょっと『いいな』と思っていただけだから」

私は慌てて否定した。

「ホント、ちょっとだけ、川端さんはそういう目で課内の女子を判断しないと思ってたから・・・」

一連の流れで、容姿で劣る自分を全否定された気がしただけなのだ。
そんなことはない、と頭はわかっているけど。
心はどうしてもついていけなかった。

「香奈」

征司さんが顔をあげた。

思ったよりも近くにある、その整ったパーツの中でも一番目立つ、切れ長の双眸が私を見つめる。
頬にあてられた大きな手。
耳に近いところで囁かれる低めの声。

さっきまでとは違う空気。

自分の心臓の音がやけに大きく聞こえる。

「俺にしとけ」

え?

もう一度聞こえた。

「俺にしとけ。大事にしてやる」

唇に感じる温かくて柔らかい感触。

征司さんのキスは魔法のように私の心を溶かしてしまった。

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