さくらいろ【短】
帰宅して夕食やお風呂を済ませた頃には、日付が変わろうとしていた。


こんな毎日にはもう慣れたけど、やっぱり昨日や今日みたいな日は虚しくなる。


ため息をついてベッドに腰掛けると、サイドテーブルに置いていた携帯が鳴った。


実家からの着信を告げるそれに、電話の相手の顔が浮かぶ。


「もしもし?」


「あ、結衣?」


「うん……」


「お誕生日おめでとう」


「え……?」


「やだ、忘れてたの?今日はあなたの誕生日でしょう?」


0時を指す時計とカレンダーに、交互に視線を遣る。


「あ、そっか……」


忙しさのあまり、今日が自分の誕生日だと言う事をすっかり忘れていた。


「仕事はどう?」


「うん、まぁまぁかな……」


毎日早朝から仕事に行く父に合わせ、昔から早寝早起きの母。


それなのに…


あたしが上京してから、誕生日には毎年必ず0時ピッタリに電話をくれるのだ。


そんな母に心配を掛けたくない一心で、明るく振る舞っていた。


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