Secret Fetishism【SS集】
「あれ?」
その声に振り返ったあたしに、柔らかい笑みが向けられた。
「偶然だね。君もここに通ってるの?」
表情と同じ優しい口調が耳を掠め、心臓がトクンと脈打つ。
「いえ」
土曜日の夜にスポーツジムなんて来たのは、トレーナーをしている兄に頼まれて忘れ物を届けに来たから。
それを説明すると、職場の先輩である彼がフワリと笑った。
「じゃあ、もしよかったら今からご飯でもどう?」
腕捲りをした黒いTシャツから覗くのは、汗に濡れた上腕二頭筋。
いつもはきっちりとスーツを着ているから、意外と筋肉質だなんて気付かなかった。
力強そうな腕。
抱き締められると、壊れてしまいそうな程に――。